2026年7月13日
「新しい場所に行った日は気分がいい」を裏付ける研究を、夜中に見つけた話
夜中に開発の手が止まって、なんとなくネットを眺めていました。コードを書くでもなく、寝るでもなく、だらだらと記事を渡り歩く時間。そこで、ある論文に行き当たりました。
Nature Neuroscienceという神経科学の学術誌に2020年に載った研究で、タイトルをざっくり訳すと「日常の経験の多様性とポジティブな感情の関係」。読み始めた瞬間、思わず姿勢を正しました。これ、自分がアプリを作りながらずっと考えていたことそのものだったんです。
GPSで人の毎日を追いかけた、ちょっと変わった研究
この研究がやったことはシンプルです。ニューヨークとマイアミで暮らす100人以上の参加者にGPSで日々の移動を記録してもらい、あわせてスマホで「今どんな気分か」を何度も答えてもらう。つまり、人がどれだけいろんな場所に行ったかと、そのときの気分を、実際の生活の中で突き合わせたわけです。
実験室でアンケートを取るのではなく、本物の日常を測っているのがおもしろいところです。移動のばらつきは「roaming entropy(移動のエントロピー)」という指標で数値化されました。毎日同じ場所を往復していれば低く、行き先が散らばっているほど高くなる数字だと思ってください。
行き先がばらけた日ほど、気分はポジティブだった
結果はこうでした。日々の行き先の多様性が高い日ほど、その人のポジティブな感情が高い。
「幸せになれる」というような大げさな話ではありません。ただ、いつもと違う場所に行った日には「楽しい」「リラックスしている」といった気分の報告が増えていた。それだけです。それだけなんですが、日常の記録からこの傾向がちゃんと出てきた、というのが重みのあるところです。
さらに脳の計測もしていて、記憶に関わる海馬と、報酬の処理に関わる線条体という部位のつながりが強い人ほど、この「新しい場所と気分の関係」がはっきり出ていたそうです。新しい経験を脳が報酬として受け取る回路の話だと解釈できます。
個人的に一番ぐっときたのは、この関係が双方向だったという点です。新しい場所に行くと気分が上がるだけでなく、気分がいい日は次の日の行動範囲も広がりやすい。つまり、うまく回り始めればループになる。逆に言えば、止まっていると止まったままになりやすい、ということでもあります。
振り返ると、自分の毎日はほぼ同じ座標の上にあった
読み終わって、自分の生活を思い返しました。
私は青森の弘前でアプリを作っているのですが、平日の移動はだいたい決まっています。家と、いつものスーパーと、たまに行く見慣れた店。地図の上に自分の一週間を描いたら、たぶん小さな三角形が浮かぶだけです。移動のエントロピー、限りなく低い。
気になる店は、あるんです。前を通るたびに「ここ、よさそうだな」と思うカフェ。でも一人で入る決心がつかないまま、結局いつもの場所に落ち着く。この繰り返しでした。
研究に照らすと、これは単に「行動範囲が狭い」だけの話ではなくて、気分が上がるきっかけを毎週取りこぼしているということになります。新しい店に入るかどうかの数十秒のためらいが、思っていたより大きなものを左右していたのかもしれない。夜中にひとりでそう考えて、ちょっと悔しくなりました。
だから、背中を押してくれるアプリを自分で作った
私が新しい店に入れない理由ははっきりしていて、「選ぶ段階」と「決断する段階」の両方で止まるからです。どの店にするか考えているうちに面倒になり、決めたとしても「やっぱり今日はいいか」と流してしまう。
それなら、選ぶ手間をなくして、入れたことがちゃんと残る仕組みがあればいい。そう思って作ったのが「Roamble」というiOSアプリです。
Roambleは、現在地の周辺からお店をランダムに3件だけ提案します。何十件も並べて比較させません。「ここへいく!」と決めるだけ。そして実際に訪問するとXPが入り、レベルが上がり、バッジが手に入ります。「新しい店に入れた」という事実が、数字と記録になって積み上がっていくアプリです。
あの論文の言葉を借りるなら、移動のエントロピーを少しだけ上げるためのアプリ、と言えるかもしれません。気になる店に入れる自分になる。その最初の一軒を、ランダム提案が押してくれます。
私自身、自分のアプリに提案された店に「ええ、ここか……」とためらいながら入る日々を続けています。それでも、開拓数が増えていく画面を見ると、悪くない気分になります。研究の言う通りだな、と思いながら。
RoambleはApp Storeで無料公開中です。気になったら、下のボタンからのぞいてみてください。